【書評・紹介】『僕が君の名前を呼ぶから』 乙野四方字
『僕愛』、『君愛』スピンオフ長篇。
誰もが望んだもう一つの感動の物語!
※『僕が愛したすべての君へ』、『君を愛したひとりの僕へ』のネタバレを含みます!
ストーリー | |
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キャラクター | |
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電子書籍 | 有り |
あらすじ
人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された時代──虚質(きょしつ)科学を研究する母と専業主夫の父とともに暮らす今留栞(いまどめ・しおり)は、中学2年の夏休みに訪れた元病院の敷地内で、内海進矢(うつみ・しんや)という青年と出会う。彼は鬼隠しに遭って姿を消した少年について調べているというのだが……別の並行世界を生きた、もう一人の栞の物語。『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』に続く待望のスピンオフ長篇
僕が君の名前を呼ぶから (ハヤカワ文庫JA) | 乙野 四方字 |本 | 通販 | Amazon
書評
この作品は、私にとってとても大切な作品です。
そして、大切であるからこそ、書くのが遅くなってしまいました。
あらすじの通り、この世界では「虚質科学」という分野の研究が進展し、人間は無自覚に並行世界を移動していることが証明されています。
しかし、並行世界と言っても何かが大きく異なるわけでもなく、例えば一つ隣の並行世界とは朝食が米だったかパンだったかくらいの違いしかないそうです。
という説明が必要のない方。
つまり、『僕が愛したすべての君へ』、『君を愛したひとりの僕へ』を読んだ後に読んでほしい。
否、読むべき作品です。
この作品が発売されることが決まって書いた以下の記事で私は次のように述べました。
よって、本作に期待されることは一つでしょう。
『僕愛』、『君愛』の主要登場人物の1人である栞。
彼女の描かれなかった人生が描かれること。
本作で描かれる世界とは
『君を愛したひとりの僕へ』で、栞は交差点の幽霊となりました。
『君を愛したひとりの僕へ』で、主人公である暦は栞を救うために奮闘しました。
おわかりの通りです。
本作は、本作で描かれるのは『君を愛したひとりの僕へ』で暦が望んだ世界です。
それはつまり、「暦と栞が出会うことのなかった世界」。
「暦と和音が結ばれる世界」。
本作は『僕が愛したすべての君へ』の世界における、栞の物語であるということを意味します。
『僕が愛したすべての君へ』において、栞と思しき女性が登場したことを覚えているでしょうか。
『僕が愛したすべての君へ』、『君を愛したひとりの僕へ』は表裏一体となっている作品です。
そして本作、『僕が君の名前を呼ぶから』もまた、『僕が愛したすべての君へ』と表裏一体となっている作品です。
内容
主人公は交差点の幽霊とならなかった栞。
転じて、「暦と栞が出会わない世界」の物語です。
では、暦と出会わなかった栞は一体どのような人生を送ったのか。
はっきり言って、小説としては普通の恋愛小説です。
一応、物語の一つの軸となる「鬼隠し」(≒神隠し)についての物語は、SF要素としての「虚質科学」。
つまり、並行世界の実在が証明され、また移動していることが科学的に明らかとなった世界における民俗学、伝承について。
例えば、夕焼けが綺麗だと明日は晴れるという言い伝え。
これは、西の空に雲が無ければ、偏西風によってその大気が移動してくるために晴れるという科学的根拠が明らかとなています。
この夕焼けと明日の天気のように、鬼隠し(神隠し)という伝承に虚質科学という科学を用いて挑むというSF小説の側面もあるのですが、こちらも言ってはなんですが普通の良いSF小説です。
良作ではあるものの、際立って何か特別なものがあるわけでもない恋愛小説、SFを小説を何故ここまで高く評価するのか。
それは、本作に先立つ作品として『僕が愛したすべての君へ』、『君を愛したひとりの僕へ』の二作があるからです。
この二作があるからこそ、この作品は読者の心を打つ物語となっているのです。
本作を読んでいると、物語の随所で『君を愛したひとりの僕へ』が思い出されます。
暦がその生涯をかけて望んだ栞の物語がここにあるのだと。
本作の最後、否応なしに『僕が愛したすべての君へ』が思い出されます。
どうか君と、君の愛する人が、世界のどこかで幸せでありますように。
僕が愛したすべての君へ 253ページより
そこでもう一度、愛する人と出会うために。
君を愛したひとりの僕へ 251ページより
二作における、暦の最後の言葉です。
この言葉を今一度思い出した上で、是非読んで頂きたい。
「鬼隠しに遭って姿を消した少年」の暗示。
「栞の人生は幸せなものとなったのか」という疑問。
『僕が君の名前を呼ぶから』というタイトルに込められた意味。
涙なしには読めない感動作です。
是非お読みください!
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dorasyo329
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