【書評・紹介】『古の女神と宝石の射手』 笠井冬
あの泣けるゲームのノベライズ
神々が紡ぐもう一つのギリシア神話の世界がここに!
この作品はスマートフォンゲーム『古の女神と宝石の射手』のノベル部分を小説にしたものです。
ストーリーとしてはギリシア神話の一節「ティターノマキア」を原典にしたオリジナルストーリーとなっています。
まずはこの作品の原典となったギリシア神話とティターノマキアについてちょろっと。
ギリシア神話とは少なくとも紀元前15世紀頃から古代ギリシア(現在のギリシャを含む地中海周辺地域)で信仰されていた多神教です。
豊かな感情を持ち嫉妬や憎しみといった欠点も併せ持つ人間的な神々が紡ぐ物語となっています。そんなギリシア神話には3人(3柱)の神々の王が登場します。原初の王ウラノス、二番目の王クロノス、三番目の王ゼウスです。このうちクロノスとゼウスは先代の王位を簒奪することによって王となったのですが、このクロノスとゼウスの神々の支配を巡る戦いが「ティターノマキア」です。
ただ、原典はギリシア神話とティターノマキアとはいえ、ストーリーは全く違います。ゼウスとクロノスが争うという大筋と登場人物(神)が同じというくらいです。
またその登場人物に関しても原典と違うところが多いです。特にゲームであったからか、原典では男の神様が女神になっていることが多いです。あるいはティターノマキアに参戦していない人物が物語に関わってきたりなど。
故に原典を読んだ人でも十二分に楽しめる作品です。
さて、ストーリー。
と言ってもあらすじの通り、裏切りから始まる内戦を描いた作品です。
この作品の面白いところはまずその戦闘の描写にあります。
神々の戦いというとぶっ飛んだ戦いかと思われるかもしれませんが、この作品においてはそこまでぶっ飛んだものではありません。まず、戦闘の主体は歩兵です。古代ギリシアの戦いをモチーフにしているのか、剣や弓などで戦い、重装歩兵などが登場します。神々はそうした人間の兵を指揮する指揮官と言った役割で描かれます。勝敗を握るのもこうした神々の指揮戦略であって、1人無双して勝利なんていうこともほとんどありません。
ただ、ぶっ飛んだ戦いが一切何もないわけでもありません。そりゃ神様ですから、世界の物理法則なんか無視した戦いなんかももちろんあります。また、銃やミサイルも神の武器、古代兵器といった扱いで登場します。イージス防衛システムなんかも登場します。神様ですからなんでもありです。
そしてもう一つのこの作品の面白いところ。それは謎が多いところです。
例えば何故ゼウスとクロノスの戦いが始まったのか(クロノスらが反旗を翻したのか)。明確な理由は明かされていません。
あるいは少々ネタバレになるかもしれませんが、
などなど、これはどういうことなのだろうと考えても楽しめる小説です。
ゲーム未プレイでも、ギリシア神話を知らなくても楽しめ、感動でき、泣ける小説。
是非お読みください!
単行本
電子書籍
蛇足
ゲームとしての「古の女神と宝石の射手」はもうおそらく更新されることはないのでしょう。
数年前からアップデートが止まってしまっています。
しかし、それでも一世を風靡したゲームであることは間違いないのです。
以下はそのゲームのプロモーション動画です。
私はこの動画を見て、いにいてを始めました。
願わくば、もう一度、今一度「いにいて」の世界がリスタートされることを願って…。
dorasyo329
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